REVITALIZATION
01東京一極集中への問題提起。
日本全国の地域・地方に溢れる、
潜在的魅力に目を向けるキッカケ。
私たちバルニバービは、1995年の1号店開業以来26年にわたり、数多くの飲食店を生み出してきました。店づくりに関して最も影響を受けたのは、パリのカフェ文化です。社交の場であり、人々の中にあっても一人にもなれる場所。地域に暮らす世代を超えた人々が集まる憩いと、コミュニケーションの場でもあるカフェには、たくさんの「人生における大切なこと」が内包されています。そんな文化を育めるような店を日本にもつくりたいという思いが、当時、人通りのほとんどなかった大阪の南船場という場所にて「アマーク・ド・パラディ」の開業へと向かわせました。以降、東京や大阪、名古屋、福岡へと、人通りのない道、エリアに『お客様の笑顔、スタッフの元気な掛け声、香ばしい香り、暖かな照明』を『街の灯り』として店をつくり、それは各街の営みへと昇華しました。
2011年に東日本大震災が起こり、東京一極集中にはリスクがあることが問題提起されました。ですが2013年の東京オリンピック開催決定とともに、問題への議論が深まることもなく、ただ助成金頼みの行政にぶらさがった地方創生計画は本質をおざなりにしているのではないか、その暗鬱たる思いを飲み込み、私たちは自ら動くことに決めました。
既存のマーケットとしては価値がないと放って置かれているけれども、私たちが標榜する「バットロケイション戦略」から見ると潜在的魅力に溢れるエリアは、日本全国の地域地方に溢れんばかりに存在することを改めて確認しました。単に地方というだけで十ぱ一絡げされている、個性的で潜在的魅力に溢れるバッドロケーションに目を向けていこうと決めたのです。
02導かれるように辿り着いた淡路島。
その地域と食材たちと共生する、
FrogsFARM ATMOSPHERE構想の始まり。
バルニバービと淡路島との関わりは、2010年に淡路麺業の出雲文人社長が飛び込みで営業にこられたのが始まりです。その当時より、いまでもプライベートブランド商品の開発を担ってくれている沖物産の入口さんとも長くお付き合いさせていただいています。その入口さんからのご紹介で淡路島各所の生産者の方々とも深く繋がりを築くことができました。淡路島にはすでに、私たちの考える地方創再生の一歩目である、地域の生産者の方々との取引・交流があり、バルニバービのサポーターとして支えられている状況が創出できていたのです。
そんな中、2015年より地方創再生プロジェクトを始めるべく、日本全国のロケーションハンティングを始めていた私たちは、商業店舗の一軒もない草地と、住まう人のいない古屋が続く、淡路島北西海岸の郡家エリアに辿り着きました。あまりに人がいない寂しさと同時に、穏やかな瀬戸内海に沈む夕陽の美しさに心を奪われ、「ここまで放ったらかしにされた土地だからこそ、私たちなら“食”をベースとした“面白いもの”を創り出せる!!」と想ったのがこの「FrogsFARM ATMOSPHERE」構想の始まりです。
周辺を歩き、た コンセプトにデザインした「中華め池や用水路でふと耳をすますと多くの蛙の鳴き声が聞こえ、都会では耳にすることもなくなったその響きは、幼い頃の郷愁をも蘇らせてくれました。ここを自分たちの元気や優しさ、自然への想い、楽しさや笑顔などを取り戻せ、老若男女多くの人々が憩い、楽しめる地にしたい、その想いが湧き起こりました。
「FrogsFARM ATMOSPHERE」構想の第一弾として淡路島北西海岸に、関西では広く知っていただいている「GARB」ブランドの大規模カフェ、「COSTA ORANGE」を2019年春にオープン。フラッグシップとなる大規模カフェは、街への強烈なインパクト、そしてその地域だけに留まらず、メディアに対しても注目させるキッカケとなりました。眼下に広がる海岸を眺めながら、また海に沈む夕陽という絶景を満喫しながらの“食”が楽しくないわけがないと感じた通り、連日の賑わいを創出することになりました。
先の話にはなりますが「ガーブ コスタオレンジ前」というバス停ができるほどとなりました。地産地消をベースとすることで、生産者の方々というサポーター、そしてお客様というサポーターが加わっていただける、それこそが“食”から始める地方創再生における大きな強みです。
03わざわざ訪れたくなる場所へ。
街に滞在するための施設、そして新たなる魅力を生み出す。
せっかく魅力的なカフェがあったとしても、滞在できる手段がなければ夜の楽しみが見つけられません。もともとは何もなかった草地、夜の灯は乏しく、暗闇。そこで1日を過ごし楽しめる宿泊施設として、「KAMOME SLOW HOTEL」を2020年夏にオープンしました。
全室オーシャンビュー、サウナやプールを有し、また朝食にはO&B(Ocean Front & Breakfast)STYLEとして、宿泊者のみがお楽しみいただける地産地消のメニューを用意。夜も滞在できる場所としての宿泊施設が生まれ、「FrogsFARM ATMOSPHERE」が第二段階へと移行しました。
奇しくもこの2020年より新型コロナウィルスの渦中へと入り、都会一極集中の弊害を再度浮き彫りにし、リモートワークが推進され、地方への注目が集まることになりました。このコロナ禍により、今までの暮らし方を考え直すチャンスともなった方も多くいるのではないでしょうか。
そして2021年、ピクニックやBBQを楽しめる2500平米を超える芝生広場「PICNIC GARDEN」を皮切りに、世界でも活躍する森田恭通氏が自身初となる“屋台”コンセプトにデザインした「中華そば いのうえ」が誕生。
また6棟の貸切コテージ「Lazy Inn.」が株式会社WonderWandErs代表、須藤玲央奈氏の運営によりオープン、宿泊施設の幅が広がり、さらには地元水産会社の森水産と共同し、浜直の地魚ネタが味わえる「淡路島 回転すし悦三郎」を開店。淡路島の各漁港から届けられる魚介をつかった“本当の美味しさ”を発信し続けています。夕陽が沈んだあとの憩いの場として誕生したのが「酒場 ニューライト」。
地元の方、また旅行者の方々への交流スポットに。こうして人々が集い、訪れ、働き、住まい、暮らしを営み、地域のコミュニティに並走するカタチで、私たちの地方創再生の道が開けます。その一端が所有地に整備している、全長約400mのゆったりと歩ける遊歩道です。それまでは人々が安心して歩くことができる歩道はなく、大型トラックが道路を行き交う、危険な場所でした。外から来訪される方はもちろん、近隣にお住まいの方々が安心して暮らすことができる「街づくり」を目指すこと、それは地方創再生を行う私たちの使命です。
04なぜ“食”から始めるのか。
それは地方に潜む、『3つの屈』を覆すことができるから。
地域活性化が叫ばれた幾年月、多額の予算をかけ様々な手法、施作が進められてきました。その多くの成功例、そして現在進行形があることを認識した上で、それらは本当にそれぞれの地域に根ざしたものになっているでしょうか。開業時の一瞬しか心を掴めないものになってしまっているものもあるのではないでしょうか。
なぜそうなるのかを自答しました。そこから私たちの出した答えは「面白くない!!」からです。
地方には『3つの屈』が潜んでいると考えます。『退屈』、『卑屈』、『窮屈』の3つです。1つ目の『退屈』とは夜が暗く、怖い。足を踏み入れたいと思う場所ではなく、滞在したいとは思えない。これからの日本の未来を担う若者や働き盛りの壮年、パワフルなシルバーエイジ、彼らが夜のつまらない、『退屈』な街に住みたいと思うでしょうか。その回答としての“食”、気の利いたカフェ、地方でしかない食材をつかったグルメを唸らせるレストランやバーがあればその『退屈』さは解消できます。
『卑屈』、都会と比較し、自分たちの街には何もないと、ないもの探しを始めてしまい、都会にあるものが欲しいと横並びの発想で、その街の誇りを失っている状態があるのではないでしょうか。本来、その街の歴史、風土、農業、水産業、竹林業、畜産業、酪農業など、そこでしか生み出し得ない何ものかが、きっとそこにはあるはずです。都会から見ればむしろ憧れとなるコンテンツが山ほどあることに気づけばその『卑屈』さは無用なものとなります。
最後の『窮屈』とは、古い因習や地方の閉鎖的なコミュニティは時として人々を硬直させ、新たに流入する人々を阻む結果になることもあると考えます。エリアが活性化するとともに、多くの雇用を生み出し、域外からの人々の参入により、今までのコミュニティが動き出すキッカケとなり、『窮屈』を覆すことが可能になると、私たちは考えています。
このように私たちが1995年の1号店「アマーク・ド・パラティ」開業以来培ってきた“食”は、この『3つの屈』を突き破り、覆す力があります。あらゆる活動の原点、“食”に向き合ってきたからこその、バルニバービの地方創再生プロジェクト「FrogsFARM ATMOSPHERE」。
その“食”のもつ可能性に、ぜひこれからもご期待ください。
株式会社バルニバービ 代表取締役会長